新宿レコード (Another Version)
気づかないうちに編集長が新宿レコードのマダム藤原(藤原邦代)さんご逝去のことについて書いていたので僕も少し。
僕は編集長とは違って、地方出身者なので顔を覚えられるほどのお付き合いではなかったのですが、実は生まれて初めて話した「東京の人」がマダムでした。
初めて上京した19歳の時、所用で2週間ほど初めての東京に滞在して最初の週末、BURRN!誌にたびたび載っていた憧れの新宿レコードに行ってみました。おそるおそる店内に入ってみると、輸入レコードの山とあの愛すべき匂い、それと当時少しずつ出始めていたマイナーメタルのCDが飾ってありました。多分、僕が挙動不審だったのでしょう、マダムはすぐに「どこから来たの?」と話しかけてくださいました。ひとしきり僕の故郷に旅行された時の思い出を聞かせていただき、すっかり緊張も解けて、レコード漁り開始。あらかじめリストアップしておいたレコード、50枚くらいだったかな、全て在庫はあったのですが流石に50枚は持って帰れないなぁと悩みあぐねていたら、「お家まではここから宅配便で送れるけど、お金大丈夫?」と心配される始末。バイト代をたっぷり握りしめて準備万端で行ったので「大丈夫です」と借金することもなく、無事購入してお店で箱詰めして発送していただきました。その日からレコードやCDを買う行為が常人の感覚から逸脱して行ったのですが。
その後もたびたび新宿レコードを訪れて、マダムや時にはご主人ともお話しさせていただきました。プログレをちょっとかじったのも新宿レコードの影響です。CDバブルの頃は他にも近辺にレコード/CD屋ができたり、新しく見つけたりして、初めて訪れた時よりも大量に買うということはありませんでした。でも、なんとなく勝手に恩人のような気がして、新宿に行った時は必ず訪れるお店のひとつであり続けました。
しかしながら、世はダウンロードの時代となり、レコード/CD屋も新宿からどんどん減って行き、新宿駅で降りることも、新宿レコードに行くこともなく遠ざかっていきました。そして昨年、経営を譲渡、引退されると聞き、もう一度、当時のお礼が言いたいと思っていたのですが叶いませんでした。その後、経営者の変わった新宿レコードに一度行きましたが当時の面影はなく、更にお店は西新宿から下北沢に移転、もう行くことはないのかなと思っていた矢先のマダムの訃報でした。
あの19歳の頃に緊張して騙されやしないかと冷や冷やしながら入った新宿レコード、マダム藤原さんがいなかったら、多分こうしてマイナーメタルを聴きまくり、ファンジンに文章を書いている僕もいなかったと思います。初めてお話しした「東京の人」、マダム藤原さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
from YK